翌日、フルメンバーでスタジオに入ることになった。けれど僕はスペイン語が話せない。前日にかろうじて聞き取れたのは、「明日この時間に、君の泊まっているホステルに迎えに行くよ」という一言だけだった。だから、車に乗り込んでスタジオに向かうまで、どこへ行くのかもわからなかった。
スタジオに着くと、店員さんがアジア人の僕を見て、ぱっと表情を明るくした。そして、何の説明もないまま、演奏が始まった。けれどその時、僕は何もできなかった。リズムの捉え方が、日本とはまるで違っていた。あるいは、ただ緊張していたのかもしれない。自分でも、理由はよくわからなかった。
でも、バルセロナに着いた瞬間から、街の音、生活のざわめき、バルセロネータの波の音、タクシーの運転手がアクセルを踏む感覚まで、すべてが裏拍に聞こえていた。その感覚は、帰国してからも、しばらく僕の中に残り続けた。1か月ほど、世界が裏拍で鳴っていた。
それから5年後。日本で独自に修行を積み、もう一度、バルセロナへ渡った。
スタジオに入ったときの動画
https://youtu.be/elXqdd-Atf0?si=1PUOiFLO86ICQuIo