母参道

 僕はお母さんを知らないから


お母さんに逢うための比喩は要らない


白鳥のように長い首をもたげたり


馬のたてがみのようにゆれている


想いはお母さんを支える楼閣だった


子鹿のように軽快に


跳ねあがる僕の心臓へ


研ぎ澄ました爪先を立てた


希望と絶望の


かわるがわる波音が


海の底へ沈んでゆく


記憶になれば化石になれる


からだじゅうのお母さんが言っている


僕を捨てたあの償いを


岸壁に砕ける羊水が削りとる


暗闇を照らしながら


まっすぐ突き進む満月の参道に


今夜も人の往来がある


もう僕のお母さんは生きているのか


死んでいるのかわからない


そのやうな


産声も聞こえないところへ


手をあわせに上ってゆく人や


手をあわせて下りてくる人がある